企業経営には紛争がつきものです。民事訴訟は、紛争解決のための最終手段とされます。
紛争解決を裁判所に持ち込むメリットは、訴訟の場での交渉相手は、それまでなんだかんだと言って約束を守ろうとしなかった取引相手ではなく、裁判官であることです。
訴えを提起する場合には、勝たなければなりませんし、訴えを提起された場合には、負けるわけにはいきません。
ところが、訴訟経験がない人や、自己流で事を進めてきた人には、裁判官との関係に誤った思い込みがあります。
裁判官が親切に接したり、言い分を理解する態度を示したりすると、無邪気に喜んで自分が勝ったような気持ちになる人がいます。しかし、それは、公務員としての本来の姿であり、言い分を理解したというのも、ただ内容を理解したということであり、それが正しいと賛同しているわけではありません。
にっこり笑ってバッサリ切るということは、プロのスキルのひとつです。
また、本人訴訟で法廷に立つ相手方を見ていると、なぜそのようなことにこだわるのか、あるいは、あれを言えば有利になるのにと思うことがしばしばあります。
思い込みは、致命的です。訴訟独自に、勝つためのルールが存在するのです。
裁判官を説得することが全て
裁判官のスタンスを踏まえた対応:「裁判官の諸相」も当然考慮
我々は、中立かつ公平な立場で職務を遂行すべきである裁判官を説得しなければなりません。
裁判官は、 公正かつ迅速な訴訟進行をするべき責務を負う裁判所の立場から、当事者が思う真実にかかわらず、自身こそが真実を明らかにするとの使命感に基づき、当事者に対しては、迅速に訴訟上の真実として的確な真実に到達できるために適切と考えられる訴訟活動を求めてきます。
もっとも、次の「裁判官の諸相」の引用のとおり、裁判官らも生の人間であり、その要求がいつも「最も適切な紛争解決を図る」とか「訴訟が公正かつ迅速に行われるよう努める」といった理念に基づくものとはいえないのが実情です。
裁判所の立場からの正論といいながら、裁判官自身の個性やパーソナリティの現れにほかならず、単なる個人レベルでの効率化の要求であるといったこともあるのです。
我々は、このような現実をも取り込んで、「目の前の裁判官を説得するための戦略、戦術を最適化して訴訟活動を展開していかなければなりません。
著名な元裁判官は、「裁判官の諸相」を次のように指摘し、「訴訟の現場では、……、訴訟の係属中の裁判官の言動、判決の内容によって当事者が判決に対して失望することが多い(勝訴した当事者であっても、裁判官の言動、判決の内容に相当な不満、失望を抱くことは少なくないのが実情である。)。」と述べています(升田純「実戦 民事訴訟の実務[第6版]」)。
「裁判官の諸相」
〇「当事者双方の主張・立証活動を真摯に検討していない者」
〇「当事者の一方に偏見を抱いているとしか考えられない者」
〇「自由心証主義を振りかざす者」
〇「極めて非常識な訴訟活動を放任し、法廷をサーカス場にしている者」
〇「法廷をジャングルにしている者」
〇「居丈高な言動を繰り返す者」
〇「怒鳴る者」
〇「関係法律を理解していない者」
〇「社会常識、社会通念を無視する者」
〇「自分の経歴を明言し、振りかざし、当事者の主張を制限しようとする者」
〇「科学・技術が密接に関係する訴訟でこれらの知見を無視し、あるいは無知な者」
〇「判決は書き方次第でどちらでもかけるなどと公言する者」
〇「根拠のない和解を強いる者」
〇「法廷内のとっさの出来事に適切に対応できず、戸惑うだけの者」
裁判官の判断構造や判断過程も考える
すべての事実についての証拠が残っているわけではないため、真実は一定の幅を持つ概念であって、真実は一つであるといっても、証拠に基づいて組み立てられる、訴訟における真実は相対的なものです。
そればかりか、そもそも裁判官自身がご自身の判断構造や判断過程を客観的に把握しつくしているわけではありません(「メタ認知」の問題)。
判断というのは、無意識の要因にも大きく影響されます。自分自身の判断過程を客観的に捉えることは難しく、無意識の要因の影響を自分自身では認識していないことはよくあることです。
裁判官が考える真実が確定したとしても、それが当事者双方にとって妥当な解決となるとは限りません。当事者には、勝つことを前提としたあるべき解決像があります。
裁判官が考える事件の実態(スジ)や解決の落とし所(スワリ)にしても、先入感や偏見、独断が排除されている保証はありません(裁判官は秀才かもしれませんが、卓越した人格者、技能者ではありません。)。
依頼を受けた弁護士としては、依頼者にとっての具体的な妥当性を踏まえ、許容される範囲の真実を追求し、裁判官の判断過程に効果的に働きかけを繰り返す必要があるのです。
当事務所ができること
私は、依頼者にとっての「勝ち」とは何なのかということにこだわります。実は、この点は決まり切ったことではないのです。経営者のキャラクター・パーソナリティーは様々です。依頼者と弁護士はこのことを突き詰め、「共働」していかなければならないのです。
そして、紛争解決のモデルは「訴訟」であり、実際に「訴訟」を行うスキルとマインドが、弁護士に必要な基本的な能力だと考えています。
これまで、さまざまな訴訟に取り組みながら、中小企業の「企業法務」全般に注力し、常に30社以上の企業を顧問弁護士として直接担当し、30年以上の弁護士としての経験と実績を積んできました。
この経験と実績を活かし、依頼先企業の実態や事情に加えて、企業独自の志向や経営者のキャラクターやパーソナリティも考慮し、紛争の予防と解決に取り組んでいます。
ご興味があれば、お気軽にご相談ください。
【取引先などを訴えて企業間紛争を解決する:民事訴訟の活用法】はこちらをご覧ください。
Contents
- 1 企業間紛争について民事訴訟の活用場面:特に中小企業の場合を念頭に
- 2 企業間紛争を民事訴訟で解決するメリットとデメリット
- 3 民事訴訟で「勝つ」ために
- 4 当事務所の取扱事例からエピソードをいくつか
- (1)事案の特殊性を明らかにし、裁判実務上の取扱いの例外として扱われるべき事例であることを説得すること:オーナー社長の死亡に対する対処の事例
- (2)躊躇する裁判官の背中を押す:土地区画整理事業の事例
- (3)裁判官の判断は、その個人的な視野・価値観の外にはでない(勝訴判決が判例雑誌に掲載される前に、逆転判決が出て狼狽えたこと):ゴルフ会員契約の解除の事例
- (4)裁判官が判決の理由を書きやすい主張を構成する:会社の支配権の確保の事例
- (5)事件ごとにそのたび、そのたび繰り返さなければならない:オーナー社長の死亡に対する対処、再び
- (6)裁判例の相場どおりにせずに、認容額を増額させたり[原告事案]、割合を下げて支払額を減額する[被告事案]:名誉毀損の事例、商品取引の事例、官製談合の事例
- 5 弁護士の選び方
- 6 当事務所ができること
代表弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
この経験と実績に裏付けられた強みを活かし、依頼先企業の実態や実情に加え、企業独自の志向、そして経営者のキャラクターやパーソナリティーも踏まえた紛争の予防と解決に取り組んでいます。