肖像には人格的利益が認められています。
誰もが「肖像権」という権利で保護されています。
ただ、その保護については、表現の自由等とバランスを取る必要があり、判例上、「社会生活上受忍の限度」といった基準で侵害の有無が判断されています。
今の世の中は、誰でも簡単に他人の写真を撮って、SNSなどでシェアできる時代です。そのため、肖像権に関する「権利意識」も高まって、トラブルが起きやすくなっています。
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● 肖像権を侵害した場合は損害賠償請求をされる可能性があります
「掲載された風景写真の中に、私の肖像が勝手に使われている。」
「似顔絵が掲載されているが、それは私の顔だ。」
などとのクレームがつけられることが増えてきました。
肖像は、「人格権に由来する権利」とされ、排他的権利としての肖像権が認められています。一定の要件を備えれば、差止請求権が認められ、損害賠償請求権が認められます。
肖像については、「人格権に由来する権利」である排他的権利としての「肖像権」が認められています。肖像権が違法に侵害されると、差止請求権が認められ、不法行為として損害賠償請求権が認められます。
● 肖像権を侵害した場合の迅速な対応、予防策を立てることで企業を守ることに繋がります
スマートフォンなどが広く使われている今、インターネット上のSNSで肖像がたくさんの人に公開されています。このため、表現の自由という名目で、勝手に肖像を使う人が増えています。肖像が無断で使われることに対して、被害を受ける側の「権利意識」も高まっています。その結果、正当な表現活動や営業活動の一環として、肖像の使用が許されるべき場面であっても、クレームが出たり、紛争が生じたりしています。トラブルになった顧客が、長時間にわたって大声でクレームを述べた挙げ句、感情的になって従業員の顔や名札を撮影して公開するといったこともしばしばのようです。
紛争予防策として、ニュース、バラエティー番組などでは、顔にモザイクをかけたりして、人物が特定されないようことが増えています。生成AIを使って作った文章や画像についての肖像権侵害も議論されるようになりました。
近時の例を挙げると、2023年7、8月現在、球団が肖像権を一括で管理している現状で、日本プロ野球選手会が、肖像権を選手がより柔軟に使用できるよう球団に求めています。また、43年ぶりに映画やテレビ出演に対して入ったストライキに入った全米の俳優ら16万人が加入する俳優組合は、デジタル肖像権の保護についても提案し、全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)の提案に対し「1日分のギャラで俳優の肖像権を会社が所有して永遠に使用できる案は、画期的ではない」などと反発する事態も起きています。
企業としては、訴えが起こされた場合に争いを解決する方法ばかりでなく、最初からクレームを起こさないような対策を考えることも大切です。そして、もしクレームが起きても、簡単に解決できる仕組みを用意しておく必要があります。
● 肖像についての人格的利益を守ることができる「肖像権」とは?
人は、みだりに自己の容貌等を撮影されないということ、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有するとされています。
みだりに自己の容貌等を撮影されないということ、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されないことについて、誰もが法律上保護されるべき人格的利益を有するとされています
そして,人の容貌等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあります。容貌等を承諾なく撮影することが違法となるかどうかは,次の事情等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断すべきとされています(最高裁判所平成17年11月10日第一小法廷判決[法廷内写真撮影事件])。
①被撮影者の社会的地位
②撮影された被撮影者の活動内容
③撮影の場所
④撮影の目的
⑤撮影の態様
⑥撮影の必要性
これは和歌山毒物カレー事件などで著名な刑事被告人についての事件です。
容貌等を法廷内で隠し撮りした写真、作成したイラスト画を写真週刊誌「FOCUS」)に掲載したことにつき、写真の撮影、掲載が肖像権の侵害にあたり、イラスト画の掲載が侵害にあたらないとされた事例です。
とはいえ、最高裁判所は、写真とイラストの違いだけで区別しわけではなく、それぞれの事情を踏まえ、社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断しています。
この判例の考え方を参考に、社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかということを検討する場合には、人格的利益の法的意味をきちんと理解した上で、専門的な視点で場面についての観察を行いながらの判断が必要となります。
なお、この判決では、法律上保護されるべき人格的利益として判断しており、肖像権を「人格権に由来する権利」として正面から認めたのは、後にご紹介するピンク・レディー事件の最高裁判決です。
● 肖像等自体の商業的価値である「パブリシティ権」とは?
ところで、人の氏名、肖像等は、商品の販売等を促進する「顧客吸引力」を有する場合があります。顧客吸引力を排他的に利用する権利は、肖像等自体の商業的価値に基づくもので、人格権に由来する権利の一内容とされており、「パブリシティ権」と呼ばれています(最高裁判所平成24年2月22日第一小法廷判決[ピンク・レディー事件])。
そして、肖像等を無断で使用する行為が、次の3類型など、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当であるとされています。
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用されている。
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付されている。
③肖像等を商品等の広告として使用されている。
この判断基準は、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の注目を集めるなどして、その肖像等をニュース、論説、創作物等に使用されることもあって、使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきということを考えて、違法を厳しく限定した要件の下に認めたものです。
この基準を示した最高裁の判決は、子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したピンク・レディーの写真を無断でダイエットを紹介する記事として週刊誌に掲載したことが、パブリシティ権の侵害に当たらないとしました。
もっとも、判決での説明は、一般の人にはなかなか理解しにくいものであり、読む人ごとに自分の立場に都合よく理解される可能性があります。そもそも「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的」の判断は難しいものです。
そして、営々と努力し、蓄積してきた有名人の名声、肖像等の保護の重要性も広く認められているところであり、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的」といっても、立場によるブレを避けられず、一義的とはいえないと思われます。
肖像等を使用する場面について、この判断基準を最高裁の名を借りて軽はずみに使うのは危険です。
● 肖像権侵害を未然に防止するうえでも、肖像権の取り扱いを日々、留意する必要があります
「人格権に由来する権利」、「顧客吸引力」、「商業的価値」、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的」などというと、難しい言葉を使うと、それっぽい感じがしてしまいます。しかし、肖像権やパブリシティ権の侵害を判断するのは、実はとても難しいことです。
今の時代、人々の肖像権に対する意識がますます高まっています。企業は、肖像を使用する場合、その表現の自由、経済活動の自由に名を借りた行動と評価を受けることとなれば、「風評被害」など、それに伴う損害を回復することができない問題が起きるかもしれません。
肖像等を使用したことで紛争が発生したら、直ちに対処しなければなりません。紛争を避けるための対策を日頃から考えておかなければなりません。肖像という人格的利益に対するさまざまな価値観を踏まえ、侵害されたと主張する人々の感情を理解し、過剰な権利意識での追及を受けないようことに気を配ることも大切です。
● 肖像権に関する相談、対応は経験豊富な弁護士にご相談ください
当事務所は、これまで多種多様な訴訟に取り組み、顧問弁護士としては常時30社を超える企業を直接担当しながら、弁護士歴30年を超える経験と実績を積んできました。この経験と実績に裏付けられた強みを活用し、依頼先企業の実態・実情に加え、企業独自の志向、そして経営者のキャラクター・パーソナリティーまでも踏まえた紛争の予防・解決を実現することに取り組んでいます。
肖像等について紛争が発生したり、その紛争の予防を考えている経営者の方は、ぜひ当事務所までご連絡ください。
代表弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
この経験と実績に裏付けられた強みを活かし、依頼先企業の実態や実情に加え、企業独自の志向、そして経営者のキャラクターやパーソナリティーも踏まえた紛争の予防と解決に取り組んでいます。